おすすめ欄は自分で設計する時代へ。YouTubeのAIカスタムフィードが変える動画消費の主導権
おすすめ欄は、長いあいだ「見せられるもの」だった。ユーザーは動画を選んでいるようで、実際にはアルゴリズムが作った流れの中を進んでいる。だがTechCrunchによれば、YouTubeはAIを使ったカスタムフィード機能を導入し、ユーザーが自分の言葉で見たい動画を説明すると、Geminiがその依頼に沿ったパーソナライズフィードを作るようになる。
これは小さなUI変更に見えて、かなり大きな転換だ。これまでの推薦アルゴリズムは、主に過去の視聴履歴、クリック、滞在時間、いいね、登録チャンネルなどからユーザー像を推定していた。新しいカスタムフィードは、ユーザーが「今はこういう動画が見たい」と明示できる。つまり、推薦の主導権が、行動履歴だけでなく言葉にも移る。
アルゴリズムはブラックボックスから会話相手へ
動画プラットフォームの最大の問題は、なぜその動画が出てくるのか分かりにくいことだった。少し見ただけのジャンルが延々と出てくる。刺激の強い動画に寄る。短期的な反応に引っ張られる。ユーザーは不満を持っても、できることは「興味なし」を押すか、履歴を消すか、別アカウントを作るくらいだった。
AIでフィードを設計できるようになると、関係は少し変わる。たとえば「週末に学べる短めの科学解説」「小学生にも分かる宇宙の動画」「料理初心者向けで広告っぽくないレシピ」「仕事前に見られる落ち着いたニュース解説」といった指示が、そのまま視聴環境の設定になる。アルゴリズムは、背後で勝手に動くものから、会話で調整するものへ近づく。
生活者にとっての価値は、時間の防衛にある
この変化が重要なのは、単に便利だからではない。動画プラットフォームは、生活時間を大きく左右する。何を見るか、どれだけ見るか、どの感情で一日を終えるか。推薦アルゴリズムは、すでに生活環境の一部だ。そこにユーザーが言葉で介入できるなら、AIは「もっと見せる」ためだけでなく、「見たい方向に整える」ためにも使える。
もちろん、カスタムフィードが万能になるわけではない。AIが作るフィードも、プラットフォームの広告、収益、エンゲージメント設計から自由ではない。ユーザーが指定した意図と、プラットフォーム側の最適化目標が衝突する場面は残る。だからこそ、今後は「どこまで本当にユーザーの指定が反映されているのか」が問われる。
クリエイター側にも新しい最適化が生まれる
カスタムフィードが広がると、クリエイターの戦い方も変わる。これまでは、タイトル、サムネイル、視聴維持率、投稿頻度、ジャンルの強さが中心だった。今後は、ユーザーが自然文で作るフィードにどう見つけられるかが重要になる。検索SEOに近いが、キーワードだけではなく、動画の文脈、説明、チャンネルの一貫性、視聴者の目的に合うかが効いてくる。
日本のクリエイターや企業チャンネルにとって、これはチャンスでもある。大規模なバズを狙うだけでなく、「特定の状況で必要とされる動画」を作る価値が上がる。新入社員向け、親子向け、地方観光の短時間ガイド、専門職の基礎学習、趣味の再入門。AIフィードは、派手な動画だけでなく、目的に合った動画を拾い上げる可能性がある。
自分用のメディア環境を持つ時代
SpotifyもTaste Profileのように、推薦の中身をユーザーがより細かく調整する方向へ動いている。YouTubeのカスタムフィードも同じ流れにある。プラットフォームは、全員に同じホーム画面を見せるのではなく、ユーザーごとの「小さなメディア環境」をAIで生成するようになる。
LocalLensJapanとして注目したいのは、この変化が情報リテラシーの形を変えることだ。これから必要になるのは、単にフェイクニュースを見抜く力だけではない。自分がどんな情報環境にいたいのかを言語化し、AIに伝え、結果を見て調整する力だ。AI時代のメディア消費は、受け身の視聴から、環境設計へ移っていく。
おすすめ欄をAIに任せるのではなく、AIを使っておすすめ欄を設計する。この違いは大きい。動画を見る時間が増えるほど、私たちは「何を見るか」だけでなく、「どう選ばれる環境に身を置くか」を考える必要がある。
参照: TechCrunch